ベトナムのニュースから第10回~ベトナム人のお買いもの

ニュースで見たベトナム人のお買いもの事情。

ベトナムのお土産といえば、刺繍小物、バッチャン焼き、コーヒー、ハス茶にアオザイ等など。ところで、ベトナム人はそういうものを買っているのだろうか?今回はベトナム人の買い物に関する話題をご紹介しようと思う。

[1.広告を見てみよう]


広告にはお国柄が出る。ベトナムの広告を見ていてすぐに気づくのは、粉ミルクの広告が多いことだ。あるお昼の料理番組の間に流れたテレビCMを順番に羅列してみると、ハミガキ、粉ミルクA、衣料用洗剤、粉ミルクB、粉ミルクC、ヌクマム(ベトナム魚醤)・・・。

2010年5月、ベトナムにおける効果的なテレビ広告トップ10が発表された(※1)。結果は以下の通り。1・2位 ビナミルク(Vinamilk:牛乳)、3位 シンプリー(Simply:大豆油)、4位 ハイネケン(ビール)、5位 オモ(Omo:衣料用洗剤)、6位 味の素(うま味調味料)、7位 コカコーラ、8位 クノール(顆粒ダシ)、9位 クローズアップ(Close Up:ハミガキ)、10位 ビーライン(Beeline:インターネットサービス)。

ベトナムでCMを成功させる秘訣について、調査を行った市場調査会社の最高責任者リチャード・B氏はこう語った。

「まずは独創的なフック(鉤、引きつけるしかけ)で見る人の興味を引くこと。これは本や映画を作成する時と同じ要領です。
(顔についているのは携帯電話の跡。フックのきいた広告と言えるのでは)

(顔についているのは携帯電話の跡。フックのきいた広告と言えるのでは)

製品やロゴよりも、人を前面に出すようなCMが成功します。数十秒間の中に1つのストーリーを作り、その中でそのブランドが決定的な役割を果たすような内容がいい。露骨にブランド名を強調したり、説明ばかり多いものは効果的ではありません。映像に語らせること。

ベトナム人の感情に訴えるのがコツです。社会的責任、プライドに訴えかけ、家庭の大切さや、道徳観を強調すること。それによりブランドに対する愛着心を生みます。」


該当製品を購入し観察してみると、地場企業であるビナミルク以外の製品はすべて外資系企業がベトナムで生産しているものだった。
ベトナムのニュースから第10回~ベトナム人のお買いもの (オモ、クローズアップはユニリーバの製品)

(オモ、クローズアップはユニリーバの製品)

(クノール顆粒ダシ「きのこ・海草味」、味の素プラス うま味3倍)

(クノール顆粒ダシ「きのこ・海草味」、味の素プラス うま味3倍)

粉ミルクの話題に戻ろう。粉ミルクの広告が多いのは、通常ベトナム人の夫婦は共働きで、出産後もすぐに現場復帰する女性が多いという理由があるようだ。より栄養価の高いものを、と海外ブランド物を好む傾向も無視できない。これに対し、ビナミルクは「人を前面に出した」広告を打ち出している。
(粉ミルク選びの体験を語るマイさんとその子供)

(粉ミルク選びの体験を語るマイさんとその子供)

「子供の体重がなかなか増えず悩んでいました。医者には栄養失調と診断され、『海外ブランドの粉ミルクを飲ませなきゃだめじゃない』と言われました。家計に余裕はありませんが高い外国産を買って飲ませました。でも一向に太らないんです。悩んでいたところ、近所の子がまるまると太っているのを見てどこの粉ミルクを飲んでいるのか聞いてみたんです。そしたらDielac(ビナミルク製、国産ブランド)という製品でした。飲ませてみると子供がおいしそうに飲むんです。それを見て涙が出ました。今ではもうこの通り!」

ベトナム人の心に訴えかける広告の成功例と言えるのではないだろうか。

[2.ゼイタク消費を斬る]


買い物の話題で盛り上がりを見せたのは、4月初旬の地元紙最大手トゥォイチェー紙だ。きっかけとなったのは、ベトナムの輸入超過を嘆く記事(2010年4月3日付)だった。

「第一四半期(1-3月)の輸入超過は35億ドルに達した。輸出額が140億ドルであるのに対し、輸入額は175億ドル。輸入される品目の中には、自動車、バイク、電化製品、さらには国内でも生産できるような物まで含まれている。ベトナムからの輸出品は主に米、海産物、繊維製品、原油で、目新しい変化はない。輸入超過の原因の一つは国民が海外製品を好むことで、iPhoneを含む家電製品の輸入額は前年同四半期比53%増、自動車(部品も含む)は66%増。大手通信会社ヴィナフォンは現時点で5,000台のiPhoneを仕入れており・・・」

この記事に対して、数日に渡り様々な意見が寄せられることになる。

「2009年のわが国の米の輸出量は600万トン強で、その輸出額が24億ドルだった。電化製品と外車の輸入額を足すと今年1-3月分ですでに21億ドルに達しているなんて・・・。」
(米とiPhoneで輸入超過を風刺する絵)

(米とiPhoneで輸入超過を風刺する絵)


ホーチミン市の女子高生からは「先輩が5,000ドルの携帯電話Vertu(ヴァーチュ:富裕層向けの高級携帯電話ブランド)を見せびらかしていました!」という投書が、また石油会社に勤める会社員からは「私はiPhoneを買える額の給料をもらっていますが、iPhoneは買いません。若者は贅沢品を買うのではなく自分磨きに投資すべき」という意見が寄せられた。
(このお店ではiPhone各種が12,700,000~16,500,000ドン(約6~8万円) 2010年5月14日現在)

(このお店ではiPhone各種が12,700,000~16,500,000ドン(約6~8万円) 2010年5月14日現在)

ある大学生の意見はこうだ。「自分のアルバイト代で高いペンを買ったのですが、その時は吟味して買いました。大学生もお金を稼ぐ大変さを知るべきです。高い物を持っている友人を見ると裕福な家庭に育ったんだろうなと思いますが、持ち物が人の価値を表すとは私は思いません。」

ホーチミン市のレ・グェンさん:「自分の家に必要のないものなのに、近所の人がうやうやしく買って帰ってきたのを見ると自分の家にも欲しくなる現象、これは今どんな年齢層にも、どんな生活をしている人にも言えると思います。農民でもマンゴーが大豊作だった後にすぐ高級バイクを買ったり、公務員なのに高級車で通勤したり。ビジネスでもそうです。私たちはものすごい量のお酒で取引先の外国人を接待しますが、日本ではビールを1、2缶あける程度だそうです。」
チャービン省のタン・タオさんからは反省の投書。「自分にも心当たりがあります。友達の家の法事に、仲間数人で何か買っていこうという話になりました。最初は一人50,000ドン(約240円)ずつ出し合ってサイゴンビールを2ケース買っていく予定でした。ああでもないこうでもないと話し合った結果、3,000,000ドン(約14,500円)で2本の洋酒を買うことに。一人200,000ドン(約970円)以上の痛い出費となりました。洋酒なんて初めて買いに行くので、本物か偽物かもわかりません。その友人の家庭がお金もちだったので、見合ったものを持っていかないとと思ったんです。気前がいいところを見せたいという見栄もありました。」

「1990年の市場開放からここ20年の間、1年しか輸出超過でないというのは嘆くべきこと。『アメリカ人は多く稼ぎ多く使い、日本人は多く稼ぎ少なく使い、ベトナム人は少なく稼ぎ多く使う』と言われる始末。発展途上国でこんなにベンツやレクサスが走っている国があるでしょうか。インドやマレーシアでは国産車が多いというのに。」という専門家の意見も。
心理学教授、グェン・ティ・ミー・リン女史はその背景を分析した。

「若者が高級品を持つことをステータスと感じる現象の背景には、子供の頃からの甘やかしがあります。物に恵まれた家庭で育った一人っ子などは、小さいころから欲しいものが何でも手に入るわけですから。親は仕事が忙しくて子供に時間を割けず、かわりにお金を与えることで埋め合わせようとします。親の世代の『自分たちは若い時代に恵まれなかったから、子供だけでも満足な生活をしてほしい』という心理もあるでしょう。」

一連の流れを締めくくったのは、社会学教授のレ・ミン・ティェン氏の硬派な意見だった。

「わが国は今まさに努力してODAを誘致している国だ。なぜODAを受けているかというと、我が国の経済が弱く、援助すればさらに早く発展していくと認識されているからだ。ODAはそれぞれの国の国民から集めた税金で成り立っている。我々がその国の人々より贅沢を好んでいるとしたら、『私たちはあなたの国が支援してくれているお金をありがたく感じています』と、どう説得できるというのだろうか。

消費が経済を刺激するというのは確か。しかし、高級品というのはほぼ海外の製品だ。ベトナムの景気を良くするのではなく、海外の景気を刺激していることになる。農民や工場労働者が汗水たらして外貨を稼いでいるのに、国家としても獲得に苦労しているその外貨を、一部の富裕層が贅沢品を買うために使ってしまう。消費活動は個人の自由だが、国の利益にも影響するということを考えなくてはいけない。それがベトナム国民としての責任ある消費行動というものだ。」

[3.ブランドバッグが私の価値を決める]


トゥォイチェー紙の「贅沢批判」は4月3日から9日に渡って続いたのだが、競合紙であるタンニェン紙がまるでそれに対抗するような記事を掲載したのは4月9日のことだった。
ホーチミン市に新たにオープンしたヴィンコムセンター、海外ブランドショップも多数

ホーチミン市に新たにオープンしたヴィンコムセンター、海外ブランドショップも多数

「モデルが何百人もいる現在。ミスコンのタイトル保持者でない限り、名前を覚えてもらうのも大変だ。しかしモデルのゴック・ガンは、エルメスのバッグを買ってからその名が一躍有名に。18歳になりたての彼女が7,000ドルもするバッグを?と、偽物説も浮上した。しかし同業者が詳しく調べたところ100%本物であることが判明したのだ。

ゴック・ガンは言う。『特別な機会に、シンガポールで友達にプレゼントされたものです。モデル、ファッション業界の人間にとってバッグはそのモデルの階級を表すと思っています。私はバッグが大好きで、エルメスだけでなくルイヴィトンやグッチも持っています。もうすぐエルメスの白いのも届くはずだわ。』

韓国で予約した10,000ドルのエルメスバーキンがもうすぐ届くというゴック・ミンはこう語る。『私はモデルのお仕事を始めたばかり。バッグがその人の価値を表すという最近の流れは私も感じています。だって有名なモデルさんはみんなエルメス持ってるでしょ。それで、20歳の誕生日に両親が私に何が欲しいかと聞くので、エルメスのバッグ、それもエルメスバーキンじゃなきゃダメと答えたんです。』

恵まれた家庭で育った、もしくは高額を稼いでいるモデルにとってはエルメスのバッグを買うのは難しくない話だが、普通のモデルたちはルイヴィトン、グッチなどの1,000~3,000ドルのバッグを購入しているようだ。高級なブランドバッグを手にすることで自信が生まれるという意見も聞かれた。
ビジネス雑誌の新製品紹介コーナー、フェラガモとポルシェ

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モデルのチャン・ニュンは語る。『最初はバッグなんて興味なかったんです。でも1,100ドルのバッグを誕生日にいただく機会があって・・・。そのバッグがすごく気に入ってしまったんです。それからバッグに夢中。どのブランドのものか、どこで買うかは気にしません。見て気にいったら買います。今はベトナムで買ったルイヴィトンの4,800ドルのものが私の持っている中で一番高いバッグです。』」

モデル業界という特殊な場ではあるが、バッグで人との差別化をはかっていますと言い切る人々の言葉が堂々と伝えられ、それを否定するような内容も特に書かれていなかった。どう感じるかは読者次第だが、「高い物はやはり質が良いんだろうなぁ、いいなぁ、私も頑張ってお金貯めて買おう!」と思った読者も中にはいるのでは、そう思わせる記事だった。

[4. まとめ:表向きと心の中は別]


高級ブランド品を実際に手に入れるのは一部の人の話。しかし、高くても良い物にあこがれ手に入れようとする現象は、都市部を中心に着実に広がりつつある。その消費に対する勢いは、いかに安いもので済ませようかと考えがちのデフレジャパンから見るとうらやましい限りだ。

「わが国の農民のために、国産野菜を買おう!」というのだったらベトナム人の心に訴えるような広告を打ち出せば効果も望めそうだが、「国のために、海外製品を買わないようにしよう!」というのは無理な話だと思う。ベトナム人の大学生に人気の就職先は外資系企業で、製品の品質の良さが企業イメージに直結している結果だそうだ。

携帯について聞いてみれば「iPhoneなんて必要ない、私は安い携帯をもう3年も使ってるよ」と言うベトナム人の友人も、何気にiPhoneの値段や機能をよく知っていたりする。表向きのポーズと心の中の欲望は別、ということだろうか。
※1 市場調査会社Cimigoが140以上のテレビコマーシャルについて22,000人を対象に行ったもの。

[参照]
Doanh Nhan Saigon 92号 2010年5月12-18日
Sai Gon Tiep Thi紙 2010年5月12日
Thanh Nien紙 2010年4月9日付
Thoi bao Kinh te Saigon 2010年5月5日付
Tuoi Tre紙 4月3日、4月5日、4月6日、4月7日、4月8日、4月9日付
Tuoi Tre Cuoi 420号 2010年4月15日付
Vietnam Investment Review 2010年5月10日付


上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2010-05-20

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