ベトナムニュース第2回: ベトナムコーヒー大作戦

テレビから「・・・ポッター・・・・ポッター・・・」という言葉がしきりに聞こえてきた。ハリー・ポッターの話題かと思いテレビに目を向けると、それはマイケル・ポーター(Michael Porter)教授についての話だった。ポーター教授はアメリカ人で、経営学の世界的な権威だ。企業や国家の競争戦略について、1980年代から独自の手法を提唱してきた。
そのポーター教授がベトナムにやってきた。12月1日、ホーチミン市で行われた「国際競争力とベトナムの優位性」という題の講演会には、政府関係者、企業経営者、学者など700人が集まり聴講した。

ポーター教授の主張はこうだ。「ベトナムが強みとしている『安価な労働力』は、海外からの投資を引きつけてきた。でも、『給料が低いこと』は決して成功ではない。どうしたらもっと高い給料を得られるかということを、今後は考えないといけない。そのためには生産効率や製品の品質を上げ、差別化していくことが大事だ。」
<書店の入り口に貼られたポーター教授の著書を紹介するポスター>

<書店の入り口に貼られたポーター教授の著書を紹介するポスター>

ポーター教授はさらに具体的な例を挙げて説明した。
「シンガポールは面積が狭く、天然資源も人口も少ないのに、持っている資源をフルに活かしてあんなに成功している。それに比べてベトナムはもともと海岸線が長いし、地理的な位置、天然資源などの面で潜在的な強みを持っている。問題は、その強みをどのように生かすかだ。やり方次第で、ベトナムも物流の中継港になれる可能性がある。*1」

「天然資源について言えば、ベトナムはコーヒーの生産量が世界でトップレベルだ。でも、そのわりにベトナムコーヒーの知名度は低い。それはケニヤやコロンビアのコーヒーと比べて生産効率や品質改善の面でかなり後れをとっているからではないだろうか。」

「差別化については、靴産業を例に考えてみよう。イタリアでは一足500ドルで売れるような靴もある。それはブランド力が確立されているからだ。ベトナムの靴は、どうだろうか?他と同じものを作っていては、競争に勝てない。ユニークであることを目指すべきだ。」
<社会主義国とはいえ、書店の経済コーナーには多様な本が並ぶ>

<社会主義国とはいえ、書店の経済コーナーには多様な本が並ぶ>

翌日から各紙、各放送局はこぞって講演の内容を報道した。「ポーター教授の言う通り!差別化と、たゆまぬ改善が必要だと思う。」という意見、「物流の中継港?我が国がそんな風になれるもんかねぇ・・・。」という半信半疑の声。社会主義のこの国で「競争の戦略」が説かれ、それについて人々が熱く語っている。「まず受け入れてみて、利点があれば使う」というベトナムの現実主義の一面が表れているようだ。「具体的な解決策については、皆さんで考えてください。」と結論付けたポーター教授。近い将来、ここベトナムで何かが動き出すだろうか。
[ベトナムコーヒー大作戦]
ポーター教授も言及した「ベトナムコーヒー」についてのニュースをもう一つ。
おいしい、独特な風味があると評価されるベトナムコーヒー。ベトナムはコーヒー豆の産出量でブラジルに次ぎ世界第2位を誇る。一方で、こんな問題も抱えている。
コーヒー豆には、主にアラビカ種とロブスタ種がある。ベトナムはロブスタ種の栽培で有名だが、市場ではアラビカ種の方が高級とされている。そのため、ベトナムコーヒーは主にインスタントコーヒーの原料に使われ、低い値段で売買されている。ベトナムのコーヒー農家は今、コーヒー豆の買い取り価格が低下していることで悩んでいる。具体的に言うと、コーヒー豆一トン当たりの平均輸出価格が2008年2月には2,520ドルだったのが徐々に下がり続け、11月には1,480ドルにまで落ち込んだ。
ベトナム政府はこの現状を打破すべく、各種の競争戦略を打ち立てているようだ。12月10日、コーヒー豆の産地、バンメトート(Buon Ma Thuot)で第二回コーヒーフェスティバルが開幕した。155の企業がそれぞれの製品を持ち寄り参加。このフェスティバルの目的は「ベトナムコーヒー」を広く世間に知らしめ、ブランド力を確立することだ。
加えて、12月11日にはバンメトートコーヒー取引市場 *2 が正式にオープンした。コーヒー豆農家が不当な安売りを強いられず、適正なマーケット価格で売れるようにすることが狙いだ。
さらに政府は、今後新たにコーヒー豆の作付面積を増やさないことを決定。生産量を増やすのではなく、1ヘクタール当たりで採れるコーヒーの売れる値段をいかに上げていくかという課題を乗り越えようとしている。
<コーヒーの木>

<コーヒーの木>

<カフェは町のいたるところに>

<カフェは町のいたるところに>

ベトナム人のコーヒー通に言わせると「ベトナムコーヒーが一番おいしい。ブラジルのを飲んでみたけど味が薄いし、なんか酸っぱかったりする。」とのこと。ベトナムコーヒーは酸味がない(軽い)のだ。また「一番高い豆が一番おいしいわけじゃない。いろんな香料を加えて高くなってる場合もあるから。一番おいしいのは実は普通の値段で売ってる豆だよ。」というアドバイスも出てきた。
「ベトナムコーヒー使用」を前面に押しだした製品が輸出されていく日が来るのを期待したい。お土産にはぜひベトナムコーヒーをお試しあれ。
*1
実際、現在開発中のカイメップ港(バリア・ブンタウ省)は香港とシンガポールを結ぶほぼ中間地点にあり、人々の期待を集めている。

*2
BCEC:Buonmathuot Coffee Exchange Center

[参照]
Tuoi Tre紙 2008年12月1日付、12月2日付
Sai Gon Tiep Thi紙2008年12月3日付
Vietnamnews 2008年12月3日付
Thoi bao Kinh te Viet Nam 2008年12月4日付
ベトナム国営テレビVTV1 “Hoi nhap: Ca phe Viet Nam va uoc mo toan cau”

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2008-12-26

ページTOPへ▲

その他の記事を見る