「ベトナムのニュースから」第4回:食の安全inベトナム

[ベトナム人だって怒ります!]

<ホーチミン市3区、コープマート>

<ホーチミン市3区、コープマート>

ここベトナムで、食の安全問題はどうなっているのか。ホーチミン市内の大きなスーパーに向かうと、午前11時の食品売り場は商品を選ぶお客さんたちでにぎわっていた。その中でも、眼鏡をずりおろし、とりわけ真剣にラベルの内容を読んでいる初老の女性に私は声をかけてみた。「商品を選ぶ時、どんなことに注意していますか?」という質問に、彼女はこう答えた。「それはやっぱりブランド名。この食べ物についてはこのブランドのものを使うって決めてるの。かなり気をつけて選んでるわ。だって『ヌクトゥーンの事件』の時、ものすごいショックだったでしょう・・・。」
「ヌクトゥーン(nuoc tuong:ベトナム醤油)」とは、大豆を発酵させて作られる調味料で、日本人にとっての醤油と同じようにベトナムの食卓になくてはならないものだ。色は黒く、だし醤油といったところ。「ヌクトゥーンの事件」とは、2007年、各社のヌクトゥーンから基準値を大幅に超える発がん性物質が発見された事件だ。調査が進むにつれて続々と公表された違反会社名リストには、多くの国民が利用していた有名ブランドまでが名を連ねていた。
<ヌクトゥーンのコーナー>

<ヌクトゥーンのコーナー>

当時の消費者の反応は、混乱、怒り、不安、そして途方にくれるというものだった。「もう長年このブランドのものを食べ続けている。今更どうしたらいいんだ。癌で死ぬしかないのか・・・」。また、当初から基準をクリアしていた数少ないブランドの中に外国産のものがあったことで、国産品離れも起こった。海外ブランドのヌクトゥーンは国産品より値段が高いため、「私のような貧しい家庭の者には、そんな高級品買えません。貧しい人間は安全なものすら食べられないのでしょうか。」という意見も寄せられた。国民の怒りに追い打ちをかけたのは、保健局が、発がん物質含有のヌクトゥーンが流通している事実を2001年度に知りながら数年にわたって隠ぺいしていたことだった。
その翌年の2008年度は、メラミンに汚染された中国産粉ミルクの問題が数ヶ月間にわたって大きく報道された。ベトナムは中国と地続きということもあり、なにかと密輸されてくる。「生産地不明」の粉ミルクを大量に輸送している業者や、それらに偽のラベルを貼っている業者が摘発された。メラミンに対する検査体制が整っていなかったこともあり、調査はスローペースで進んだ。小さい子供を持つ母親たちは今まで子供に飲ませていた製品が安全だったのか不安で、とにかく赤ちゃん用の粉ミルクを優先して検査してほしいと訴えた。ベトナムの市場に流通しているメラミン汚染製品のリストは、日を追うごとに長くなっていった。
 <ミルクの問題は2009年になっても紙面に登場している>

<ミルクの問題は2009年になっても紙面に登場している>

2009年4月、いま世間を騒がせているのは、微生物、ペーハー、アンモニアなどの基準を満たしていないボトル入り飲料水の問題だ。その他、振り返れば、衛生基準の低い工場で生産された月餅(Banh Trung Thu)、偽造薬、メタノール濃度の高すぎる自家製酒などによる中毒事故、輸入・国産野菜の残留農薬など、食品の安全に関するニュースを目にしない日はないほどだ。
                      <現在騒がれているボトル入り飲料水の記事>                       <現在騒がれているボトル入り飲料水の記事>

                      <現在騒がれているボトル入り飲料水の記事>

そんな背景から、ベトナム人消費者の食の安全に対する関心が年々高まってきている。どうしたら安全な食品を手に入れられるかというのが、特に家族の健康を担う女性たちにとって寝ても覚めても頭を離れない悩ましい問題となっている。それに応えるように、専門家によるアドバイスを特集した新聞記事も掲載された。ある専門家はこうアドバイスしている。

「消費者のみなさん、今や自己防衛の時代です。食品を選ぶ際は、ラベルをしっかり見てください。ラベルに生産者・製造年月日、消費期限、成分表示が書かれていないもの、また、ラベル自体が無いもの、異常に安いもの、こういった製品は市場で堂々と売られていますが、買わないように。購入証明としてレシートを取っておくことも大事です。商品がおかしいと思ったら泣き寝入りせず、すぐに苦情を言いに行くこと。」ベトナムでは製品に関するクレームの件数が他国に比べて少なく、その理由に「私が安いものを買ったから悪かったのかしら・・・」と恥ずかしがったりあきらめたりする心理があるからだそうだ。

[『高品質ベトナム製品』マークを見つけよう]

以前から政府が展開しているスローガンに、「ベトナム人ならベトナム製品を買おう!」、「ベトナム製品を買うことが愛国である」というものがあるが、決して知名度は高くないようだ。また、評判も良いとは言えない。「グローバル化の時代に各国が自国のものしか買わないのであれば、我が国からの輸出製品が売れなくなってしまうではないか。」、「消費活動と愛国を結び付けるのはいかがなものか。」、「質も悪く値段も割高な商品を消費者が選ぶわけない、品質が良くより安いものを選ぶのが消費者ではないか。企業の努力抜きにこのスローガンは意味をなさない。」という内容の社説などが各紙に掲載された。

消費者は何を基準に商品を選べばいいのだろうか。ここでひとつ製品を選ぶ時の目安となり得るマークをご紹介しよう。名前を“Hang Viet Nam Chat Luong Cao” という
 <「高品質ベトナム製品」のロゴ>

<「高品質ベトナム製品」のロゴ>

“Hang Viet Nam(ハーン ヴィエッ ナーム)”は「ベトナム製品」、“Chat Luong(チャッ ルーン)”は「品質」、“Cao(カーオ)”は「高い」。つまり、「高品質ベトナム製品」のマークで、消費者によって選ばれた品質の良いベトナム製品に使用が許可されるものだ。

このロゴの使用権を得るためには毎年しかるべき審査を合格する必要があり、ロゴの使用期間は1年3か月。そのため、去年このロゴを使用していたが今年はロゴの使用許可が取り消されたという例もある(ヌクトゥーンの事件の時は、発がん性物質が見つかった4業者がロゴの使用を自主的に取りやめている)。また、会社単位でマークの使用権を得るのではなく、品目ごとに生産状況をチェックして判断するようだ。
「ベトナムのニュースから」第4回:食の安全inベトナム 「ベトナムのニュースから」第4回:食の安全inベトナム <調味料、米、肉コーナーにも>

<調味料、米、肉コーナーにも>

スーパーの食品売り場で目にすることのできるこのマーク、実は食品だけではなく、扇風機などの家電製品、バイク、医薬品、セメント・レンガなどの建築資材など、様々な業界の製品に適用されている。共通するのは、「消費者によって選ばれた品質の良いベトナム製品」という点だ。
「ベトナムのニュースから」第4回:食の安全inベトナム <プラスチック製の食器、ガスコンロにも>

<プラスチック製の食器、ガスコンロにも>

『高品質ベトナム製品』のロゴの使用許可を申請する企業は年々増えている。これは、消費者の信用の大事さをベトナムの各メーカーがより真剣に感じ始めている表れだと言えるだろう。
冒頭で紹介したスーパーで買い物中の女性も「『高品質ベトナム製品』マークがついているかどうかは、必ずチェックする。」とのことだった。その後、買い物客数名に「商品を選ぶ時に何を基準にしているか、『高品質ベトナム製品』マークは意識して見るか」聞いてみた結果、「このマークがあれば信じられるし、買って食べてみると実際においしい。」、「ブランド名を見る。このマークも参考にはする。」、「ちょっと高くてもこのマークがついてる方を買う。安心できるから。」、「外国産のものを買う。質が良いから。」など、それぞれが独自の基準で厳しく物を選んでいるようだった。ただ「このマークはあまり気にしない。安いものを買う。」という若者もいたが。

ベトナムのスーパーでお土産を買う予定の旅行者の方は、このマークを一度チェックしてみてほしい。


[参照]
Saigon Tiep thi 紙 2007年5月30日、2008年10月4日、2008年9月10日、2009年2月11日付 他
Tuoi Tre 紙 2007年5月26日、2009年2月28日、2009年4月2日付 他
Hang Viet Nam Chat Luong Cao HP(http://hvnclc.com.vn/)

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2009-04-13

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