「ベトナムのニュースから」第6回:外国人の目から

外国人の目からみたベトナム。

トゥォイチェー(Tuoi Tre)紙に、不定期で「外国人の目から(Trong mat nguoi nuoc ngoai)」という記事が掲載される。ベトナムの印象や今までに受けたカルチャーショックについて、ベトナム在住の外国人の意見を聞くコーナーだ。今回は4人の外国人の意見を、それに対するベトナム人の反応を交えながら紹介しようと思う。

[1. 『ごめんなさい』をあまり言わない]

まずはじめに、ハノイ在住、ビジネスチャンスを探してベトナムに来た韓国人男性の意見から。

<意見>

こちらに来てベトナム人の友達がたくさんできた。ベトナム人の良い点は、すぐに打ち解けるところだと思う。初めて会った人にもすぐに「どこの店がおいしい」、「あの店が安い」、「住むんだったらあそこらへんがいい」などと話してくれる。でも、気になる点もある。例えば「ごめんなさい」をあまり言わないところ。ある日夜道をバイクで走っていたら、無灯火で逆走してきたバイクにぶつかり転倒した。そのバイクを運転していた女性は「ごめんなさい」も何も言わずに行ってしまった。結局その時は近所の人にたのんで病院に連れて行ってもらった。

<ベトナム人の反応>

この記事に対し、後日ベトナム人読者からのこんな投稿が掲載された。「我々ベトナム人は『ごめんなさい』だけでなく『ありがとう』もあまり言わないと思う。私の会社で外国人の上司が自分の飲み物を取りに行く時、ベトナム人社員に『何か飲みたい人いる?ついでに取ってくるけど。』と聞いた。『No』と答えた10人のうち1人しか『No, thanks.』と言わなかったのだが、外国人上司にとってはそれがとてもショックだったらしい。『ありがとう』と言う習慣も、早いうちから子供たちに教えたいものだ。」という内容だ。

また、「ごめんなさい」と言わないのは「他人行儀すぎるから」という理由もあるそうで、ある30代の女性は、子供のころ家族のあいだで「ごめんなさい」なんて言ったことがあったか思い出せないという。

[2.ベトナムの美、もっと肯定して]

<韓国製の化粧品を宣伝する記事>  

<韓国製の化粧品を宣伝する記事>  

<若者の髪形もより多様に>

<若者の髪形もより多様に>


アジアの若者文化を研究するためにベトナムを訪れたドイツ人の青年は、こんな意見を寄せた。

<意見>

タイ、日本、韓国、カンボジアと回ってきた。各国に通じる共通点もあれば、相違点もある。ベトナムで一番疑問に思うのは、ベトナム人は自分たちが元々持っている美しさを肯定しない点だ。人を「きれい」とほめる時、日本やカンボジア等では「あの人、すごくきれい。」とほめる。一方ベトナムでは「あの人『韓国の女優さんみたいに』きれい。」とか、「この男の子、『西洋人みたい!』」、「このミスコン候補の子、『フランス人とまったく違わないね』。」などと言うのをよく聞く。その言い方はなんだか私の心に引っかかってしまう。ベトナム人はフレンドリーだし、他のどの国にも劣らない外見の美しさもあるのに・・・。最近ティーンエイジャーの間で韓国や日本流のファッションを真似するのが流行っているらしく、そういう服装の子たちを見ることもあるけど、長い黒髪のアオザイ姿の女性を街中でふと見かけると、ベトナムで一番美しいのはやっぱりこれだよなと思う。

<ベトナム人の反応>

この記事について、ベトナム人40代男性に意見を聞いた。「主旨は理解はできるけど、ドイツ人の彼にはまだ理解不足のところもあるのでは。というのも、ベトナム人はもともと冗談や皮肉が大好き。『あら、韓国人の女優さんみたいにきれいねぇ~・・・。』と言っている人が、はたして本気でほめているかどうか分からないことにも注目すべき。ただ彼の意見で共感できる点は、美しさの基準が昔と比べて変わってきていることで、それはミスコンテストの出場者の変遷を見れば明らかで、ベトナムで昔から美しいとされていたのは、口が小さく、色が白く、背中はやや丸まっていて、手足が小さい、などの要素だが、今のミスコン出場者たちはそろって口が大きく背も高い。この点は、西洋の基準に染まってしまっていて残念だと思う。」

また、確かに韓国のファッションをあがめたてる若者は目につくが、まだまだ「彼女は『伝統的』な美しさを持っているね」というほめ方もする、という意見もあった。

[3.ベトナム人の沈黙が怖い]

ホーチミン市在住のフランス人男性からは、フランス人らしいこんな意見が寄せられた。

<意見>

レストランで管理の仕事をしている。採用の面接をする時、ベトナム人の若い子たちはいつもうなずくだけで、質問してくることがない。ベトナム人にとって給料の話はしづらいことだということを知っているので、こちらから「給与はどのくらいを希望しますか?」と聞くようにしている。それに対して90%が「それはお任せします。でも・・・。」という答えか、沈黙が返ってくる。冷や汗をかいたのは、レストランの研修期間初日のこと。なんと5人雇ったうちの1人しか来なかったのだ。しかも来ない理由が「給料が低いから」。「お任せします」って言ってたのはその本人たちなのに!もっといただけないのは、彼らが前もって断わりの連絡をしてこないこと。「ベトナム人の沈黙=穏やかな性格」というわけではないことを学んだ。

フランス語の教師もしているが、ここでも問題なのが教室の中での沈黙だ。こちらが何か質問ありませんかと聞いても、ベトナム人の生徒は恥ずかしそうに笑っているばかり。授業中自分が一人朗読しているだけのことも多く、正直言って教室内の空気がひどく重苦しく感じる。反応がないから生徒がどこまで理解したのかわからない。教師仲間では「心理学の博士号がないとベトナムで語学教師として成功できないんじゃないか」なんて話しているくらいだ。

<ベトナム人の反応>

沈黙してしまう理由をベトナム人に尋ねてみたところ、そこには「相手を傷つけたくない」、「相手と自分、両者の体面を保ちたい」という事情があるようだ。例えばはっきり断るべきところで言葉を濁してしまう。そうすることがより悪い結果をもたらす場合があるということを、そろそろ我々ベトナム人も反省しないといけない、という意見も。相手をできるだけ傷つけたくないからという心理は、日本人としてはとても共感できる。しかし自己主張することが当たり前のフランス人には、理解し難い現象のようだ。

[4.どうして並ばないの?]


ホーチミン市在住、韓国から留学にきたソネさん(女性)の意見は、ちょっと辛口だ。

<意見>

ベトナムの大学に通っています。ベトナムは気候もいいし、料理はおいしいし、皆フレンドリーだし、大抵のことに満足しています。でもどうしても驚きを隠せないのは、ベトナム人に「並ぶ」という意識が欠けていることです。毎日大学の食堂でお昼ご飯を食べますが、並んで順番を待っていてもいつまでたっても注文できません。後ろから来た人に抜かされていくからです。本当に堂々と抜かしていきます。並んでいる私たちのことはまるで無視です。中には、私たちを指さして笑う人まで。食堂だけではありません。トイレ、バス・・・どれだけ時間がたてば我先に我先にと押し合いへしあいしている人ごみを抜け出せるのかと思うと、いつも心が萎えます。ついに「郷に入っては郷に従え」、私もその押し合いへしあいに参加せざるを得なくなりました。並ぶという美しい習慣を捨てるのはすごく悲しいことだし、まるで自分が自分でなくなってしまったようにさえ感じます。みなさんには耳が痛い話だとは思いますが、私はあえて意見したいです。一般市民の基本的なマナーがなっていなければ、その国自体が低く評価されてしまいますよ。

<ベトナム人の反応>

この記事に対する反響は大きく、新聞社には何十通もの賛成意見が届いたそうだ。主に海外生活を経験した人たちからの投稿が、数日紙面をにぎわせた。タイに留学したベトナム人の学生からは、タイの大学の食堂でなぜか自分たちだけがずっと待たされることを不思議に思っていたところ、食堂の人にやさしく「並んでくださいね」と言われて恥ずかしい思いをしたという経験談が寄せられた。

<ソネさんは一躍有名に>

<ソネさんは一躍有名に>

並ばない背景に何があるのか聞いてみたところ、「そこに空間があれば、入っていけると思う」というベトナム人の心理があるそうだ。また、戦争の影響がまだ残っていて「我先に行かなければありつけない」と思ってしまうという説も。ただ、都合の悪いことはなんでも「戦争の影響」とか「貧しさのせい」で安易に済ませてしまう我々も考え物だけどね・・・というやや自虐的なコメントも出てきた。

[気になる、外からの目]


他にも「トイレがちょっと・・・(オランダ人女性)」、「ゴミの分別ができてないのが残念(イギリス人男性)」、「なぜこんなにクラクションを鳴らすのか」など、紹介したコーナーに限らず外国人の意見を様々な新聞が取り上げている。初めてベトナムに来た外国人を、空港に着いた時点から密着取材するテレビ番組のプロジェクトも始まったそうだ。つまり、外の目を気にするようになってきていると言えるのではないだろうか。また、ベトナムで何かを変えてほしい場合、一番効果的な手段は国に訴えることではなく新聞に投稿することだそうだ。「外国人がバイクの免許を取りたくても、筆記テストがベトナム語でしか実施されていない。せめて英語のテストがあるべき。」というシンガポール人の意見が紙面に掲載された数日後、実際に交通運輸局が動き出したケースもあった。


私はあまりすぐにキレるタイプの人間ではないが、ベトナム在住の一外国人としてやはり怒りを感じるシーンはある。当ベトナムナビ名物、とよのたにはじめさんの「つっこめ!サイゴン」 に出てくる数々の現象はもちろんのこと、お客さんが並んでいるのに携帯電話で話し続ける郵便局員、不機嫌な表情でずっと付いてくる販売員、数だけは多いのにお客さんが呼んでいる時になかなか気がつかないウェイター・ウェイトレス・・・。直近では、高級とされているデパートで、ショーケースの中の商品を見せてもらおうと店員さんに声をかけたところ「ここの店員はランチに行ってるから30分後に来て」と言われ、後ほど戻ってみたら6人の販売員がおしゃべりしているのを見た時だ(なぜ皆でランチに行くのか!)。

しかし、ふとこうも思う。このような混沌とした状態をベトナム人がそのままにしている(あきらめたままでいられる)のは、ある意味ベトナム人の心が広いからではないだろうか?ベトナムは「Thong cam(トンカム:通感 =理解・共感する)」の国と言われる。日本人はもうちょっと心に余裕を持たせた方がいいのかもしれない。

[参照]
Tuoi Tre紙2009年4月30日、4月27日、4月18日、4月17日 4月16日、4月3日、3月9日、2008年10月31日、10月14日付
Marketing Vietnam 2009年8月号

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2009-09-08

ページTOPへ▲

その他の記事を見る