ベトナムニュース第1回: 40kgない私はダメですか?

こんにちは。毎朝新聞を買っては家にためているコズーです。ベトナム人の喜怒哀楽が詰まっている現地ニュースには、時に驚かされ、クスッと笑わされ、ホロリと泣かされます。そんな新聞、テレビ、ラジオのニュースを通して今のベトナムをお伝えしていきたいと思います。
[40kgない私はダメですか]
「私、体重40kg未満です・・・」という題の投稿記事(2008年10月28日付Tuoi Tre紙)が目を引いた。ここ数日、多くのベトナム人が気にかけていたのがこの話題だ。
ベトナムの保健省が「以下の健康基準を満たさない人は、排気量50cc以上のバイクを運転してはならない」という規定を公布した(注1)。その「健康基準」項目は詳細にわたり、実際運転に差し障りがあるようなもの(例えば麻薬中毒でないこと)もあるのだが、「体重40kg、身長145cm、胸囲72cm以上(注2)」という項目も含まれていたのだ。この規定のねらいは交通安全で、「国民はそれぞれの健康状態や体力に見合った交通手段を使って、公共の秩序を維持するように」ということなのだが・・・。
日を待たずして世論の猛反発が始まった。なにせこの国には小柄な人が多い。身長を聞かれた時、含みのある笑顔で「150cm!」と言い切る女性たちは実際145cm以下である場合が多々あるし、体重が40kgに満たない成人女性も普通にいる。冒頭で挙げた記事の投稿者は「小柄な人たちがより多くの事故を起こしているという根拠はあるのでしょうか。」と主張。その他、「体型で差別して、人権の侵害に当たるのでは」、「健康体でもペチャパイだとダメなの?シリコンを入れればいいってわけ?」、「それより飲酒運転を厳しく取り締まってよ」、「そもそも小柄の人たちでも安全に運転できる(乗ったときに足が地面に着く)ようなバイクがベトナムにあまり流通していない」などの意見が連日紙面をにぎわせた。
そんなさ中の10月30日、世論の反発を受け、保健省は公布した規定を自ら撤回するという事態に発展した。「ごめんごめん、みんなそんなに怒るとは思わなかったよ」という感じで、なんとも人間臭い。
ベトナムの求人広告には、「求ム、男性、165cm以上、55kg以上」、「女性、160cm以上、容姿端麗」、さらには「美肌であること」なんて明記されているのもある。またベトナムは一年のうちに両手で足りない数のミスコンテストが開催されている国でもある。そんな外見を基準とする傾向のある国だけれど、バイクの運転に関してはどうやら話が違ったようだ。
<ヘルメット着用を呼びかける看板>

<ヘルメット着用を呼びかける看板>

[ヘルメットの効用]
バイク関連でもう一つ。2007年12月、ベトナムの象徴ともいえるバイク軍団の波が様変わりした。ヘルメット着用が義務づけられたのだ。
それ以前にも幾度となく政府によるヘルメット着用キャンペーンが行われた。「脳挫傷はこんなに悲惨、ヘルメットで防ぎましょう」「走行速度の遅い市内でも、事故は多いんです。かぶりましょう。(注3)」それでも国民の反対意見は根強く、着用率は少ないままだった。変化があったのは「2007年12月15日より、ヘルメットを着用していない人には150,000ドンの罰金」というおふれが出てからだ。
施行日当日、街の光景が一変した。見渡すと、ピカピカのヘルメットを頭に乗せた人が道路にあふれている(注4)。しぶしぶかぶってやったという不愉快そうな顔あり、照れ笑いの顔あり、照れを隠すために不愉快を装っている顔あり。ヘルメットに対する人々の評判は「重い。」「暑い。蒸れる。」「炊飯器をかぶってるみたい。」「ひさしが短くて日焼けが防げない。」「ヘアースタイルが乱れる。」などなど。
<義務化以前はノーヘルが主流>

<義務化以前はノーヘルが主流>

それからほどない昨年12月27日、ホーチミン市一区のビル建設現場でクレーンが倒れ、バイクで付近を通行していた5名が負傷するという事件が起きた。道路は完全に寸断され、2台のバイクがクレーンの下敷きになった。関連ニュースをテレビで見ていると、軽いけがをした被害者の一人、中年のおじさんが現場でインタビューを受けていた。聞かれるままにクレーンが倒れてきた様子を興奮状態で説明したあと、おじさんはポツリと言った。

「・・・でもヘルメットかぶっててよかった。」

ヘルメットは交通事故だけでなく、上から降ってくる物に対しても有効だ!道を歩いていて何が起こるか分からない国だけに、おじさんのこの一言は政府のキャンペーンよりも効果があるかもしれないと思った瞬間だった。
(注1) これから免許を取得する人に限る。
(注2)このうちどれか一つでも欠けると健康基準を満たさない。
(注3) 国道などの道路では2007年12月以前にもヘルメット着用が義務付けられていた。
(注4) 施行後二日間、ホーチミン市では99%の着用率だったとの統計がある。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2008-11-26

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